【感想】セールスマン|イランにおける根強い女性差別と文化のちぐはぐ

映画

2017年に日本で公開されたイランとフランスの共同制作映画『セールスマン』。
アカデミー賞の「外国語映画」という部門で受賞した作品です。

舞台であるイランの国民は、ご存知のとおり敬虔なムスリム(イスラム教徒)であり、現在でも伝統的なイスラム文化が色濃く残っています。

この映画は、イスラム文化における根強い女性差別と、近代化に取り残された古き風習の滑稽さをテーマに描いた作品だと解釈しています。

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あらすじ

主人公のエマッドと妻ラナは、円満な夫婦生活を送っていた。
エマッドは教師として勤め、余暇はラナとともに劇団に所属し、上演が迫っている舞台『セールスマンの死』の準備に忙しい。

しかしある日、エマッドが自宅を留守にしている間に、ラナが犯罪に巻き込まれてしまう。浴室でシャワーを浴びている最中に男が侵入し、暴行を受けるという事件。

事件のショックから、精神的に不安定な状態になったラナ。警察への通報は強く拒み、早く忘れたいと願う。

一方、ラナの煮え切らない態度に怒りを募らせ、自ら犯人探しを決行するエマッド。
徐々に夫婦の仲も険悪になっていく。

そしてついに、犯人の特定に成功したエマッド。
しかし、事件の真相は予期せぬものだった…。

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感想

娯楽の要素は少なく、「おもしろい」等の感想は生まれにくい作品です。
また全編にわたりBGMが使用されておらず、登場人物たちの心情の変化を淡々と描いています。

正直な話、女性に対する差別などイスラム文化を知っていなければ、なかなか話は理解しにくいかなーという印象ですね。

イスラム文化では、女性は基本的には肌の露出を最小に抑えた服を着用します。
ヒジャブと呼ばれる布で身体を覆うのが一般的ですね。

さらに強姦などの被害に遭った場合、女性側にも落ち度はなかったかと、警察からの執拗な質問を受けるといいます。このような理由から、ラナは警察に被害届を出すことを拒んだのですね。

物語序盤のタクシーで、エマッドと隣り合わせた女性が身体的接触を過度に拒んだのも、このような背景があるからです。

そしてこの作品のテーマとして描かれているのは、伝統的な文化と合理的な近代社会の間で起こる「滑稽な矛盾」についてで、これはあらゆるところで繰り返し表現されています。

例えば、序盤に演劇の練習をしているシーン。

引用:セールスマン スターサンズ/ドマ

娼婦役の女性が「外に誰かいたらイヤだわ。私、裸だもの」というセリフを言いますが、彼女はタートルネックのインナーに真っ赤なロングコートを着用しており、肌が露出しているのは顔と手だけです。
これに対し、共演者の男性が「コートを着ているのに”裸で外に出られない”なんて」と嘲笑し、女性が激怒するというシーン。
この演劇は『セールスマンの死』というアメリカの戯曲なのですが、女性が肌の露出を許されていないイランで再現をすると、このように滑稽な演出になってしまうのですね。

また、このような滑稽さに対して誰もが「馬鹿らしい」と内心で思いながらも、伝統の文化を守っているところ、これが近頃のイスラム文化の実情なのでしょうか。

この「伝統と近代」というテーマは物語の本筋にもつながります。ラナは警察に被害届を出さないことで、常に犯人の影におびえ暮らすことになります。

ラナは夫に「怖いから一人にしないで」と要求し、さらに犯人捜しはしないでほしいと願う、非合理かつもやもやとさせる行動をとり続けます。
そんな妻に対し、徐々に怒りを募らせていくエマッド。彼の苛立ちは、なんとなく理解できますね。

私が思うに、現代という時代はちぐはぐなものが多く、急速な近代化(西欧化)がすすんだために、あらゆる点で矛盾が起きているのですよ。

合理的な社会を求め、不平な差別などは早急に改めねばならない。
それと同時に、古き文化を大事にしたいという人、さらには時代の変化についていけない人たちが大勢いる。
このせめぎあいの中で、様々な問題が発生しているのです。

作品内の事件でも、犯人は決定的な証拠をいくつも残しており、現代の警察の捜査能力ならば瞬く間に特定されるような、稚拙な犯罪です。
それがここまでこじれるほどに、伝統文化というものは難しい性質のものなのですね。

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まとめ

以上です。

私は公開当初に映画館(Bunkamuraル・シネマ)で鑑賞したのですが、一度ではストーリーを理解することができませんでした。

イスラム文化の風習や、『セールスマンの死』という戯曲についてなど、ある程度の予備知識が必要かもしれませんね。

娯楽的な内容ではないため、あまり大衆受けする作品ではないと思います。
しかし映画としての完成度は非常に高いため、イランという国の文化を学びたい方にはおすすめです。

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